○妻も女丈夫
総じて、霊界物語に出てくる女性は女丈夫である。か弱く可憐と見えし乙女は、あっと言う間に男たちを従える女頭目や大宣伝使となっている。
今回はその一人、小糸姫の話であるが、妻は、私が病室に来るのを待ち、お取次の拍手が終わるとともに目を閉じて息を引き取った。その落ち着いた最期は、女丈夫というべきであろう。
妻が亡くなる平成二十九年十月までの三年間、妻と二人での県外旅行が十五回あった。三年後に別れとなる我々夫婦への大神様からのあらかじめのプレゼントであったかもしれない。
これまで、その旅行の何回かを『愛善世界』誌で紹介した。今回の話は、平成二十七年四月二十六日に参拝した地恩郷に関わるものである。
○地恩郷と霊界物語
『大本地恩郷別院パンフレット』に記してある地恩郷と霊界物語の関係をまとめてみた。
地恩郷の西北方約半里に、昭和二十八年、出口伊佐男総長により「素尊山」と命名された大船山がある。出口聖師は、ここが霊界物語にある元の地恩郷(※二十四巻四章「一つ島の女王」)のあった素盞嗚尊の旧蹟地で、のち今の地恩郷に宮居を移されたとお示しになられている。
また、何十丈もの断崖になっている東端は「屏風岩」と呼ばれ、真下に清流がある。地恩城の舞台(※二十五巻四章「望の縁」)となった所で、宇豆姫が恋と義理のしがらみに悩まされ身投げをした場所であると出口聖師が語られている。(※は筆者記入)
○小便で書いた遺書(かきおき)
野心家の友彦が、バラモン教の副棟梁鬼熊別・蜈蚣姫夫婦に取り入ろうと、娘の小糸姫と恋愛関係になる。二人は駆け落ちをするが、次第に友彦のメッキが剥げ、品性の下劣さに愛想が尽きた小糸姫は三行半を残して家出する。(参考:「霊界物語に親しむ」(24))
小糸姫が友彦に残した遺書は痛烈である。
「初めに会うた時とは打つて変つて野卑と下劣の生地現はれ…黒ん坊の女王となつて…何程色が黒くてもお前様のシヤツ面に比ぶれば幾ら優しか…後を追うて来るやうな事を致したならば…お前を嬲殺しに致す」(二十三巻一七章「黄竜姫」以下も同)
友彦の下劣さをなじり、後を追えば殺すと脅す。加えて、汚された悔しさをぶつけている。
「苟くもバラモン教の副棟梁鬼熊別の娘と生れ、お前のやうな馬鹿男に汚されたかと思へば、残念で、恥しくて、父母にも世界の人にも、何うして顔が会はされやう」
そして、とどめの文面である。
「アヽ此の文を書くのも胸が悪くなつて来た。水で書くのは余り勿体ないから、お前の小便の汁で墨をすつて、茲に一筆書き遺し置き」
水ではもったいないから友彦の小便で書いたという。一方、スパルタ語が読めない友彦は命の綱、お守りとして大事にしていた。この対称的な二人の面白さ。
「其の一枚の遺書が私の生命の綱だ。之を証拠に一度邂逅り会つて旧交を温め…大切に御守りさまとして持つて居り」
なお、小糸姫の母蜈蚣姫もひどい。似た者親子である。
「一目見ても反吐の出るやうなお前の面つき」
その後、親子は宣伝使になる。母(黄金姫)が小糸姫(清照姫)の汚れをからかうが、娘も負けてはいない。表現もきわどい。
「黄金『黄金の姫の司が現はれて 葵の沼のわれた月みる』
清照『われた月そりや母さまの事ですよ 私の月はまん丸い月』
黄金『オツホヽヽヽ手にも足にも合はぬお嬢さまだなア』
『われぬ月とは言ふものの友彦の 波に砕けし半われの月』」 (四十巻一八章「沼の月」)
○臭いで捕まる友彦
友彦は、小糸姫と駆け落ちをしたシロの島(セイロン島)を出て淡路島に渡る。女たちを欺したことが曝かれ、便所の跨げ穴から逃げる。友彦の情けなさは滑稽である。
「『俄に大便が催して来ました。どうぞ便所へ往く間御猶予を願ひます』…と直様雪隠に入り、跨げ穴から潜つて外に這ひ出し」(二十三巻一四章「籠抜」)
しかし、友彦は明るい。ネタにして面白がっている。
「獅子奮迅の勢で活動した結果、とうと糞塵の中に陥り、フン失の所だつた。アハヽヽヽ」(二十三巻第一五章「婆と婆」)
加えて、友彦は、その臭いで隠れていたのを見つかる。
「『淡路島の洲本の酋長…の家来となつた清公、武公、鶴公の三人…極悪無道のバラモン教の宣伝使…霊隠の跨げ穴より脱け出し…後を追つ駆来て見れば、嗅覚鋭利な此犬の力によつて…糞の臭が此岩窟の続がつて居る以上は…泥棒は当岩窟に居るに相違御座るまい』」 (二十三巻一八章「波濤万里」)
私は、自分が拝読した霊界物語の録音を車の中で聞いているが、「糞の臭が此岩窟の中まで続がつて居る」という箇所を、笑いながら録音していた。
○恋心を細やかに描く
酋長の家来で、清公と鶴公が出て来たが、最初に紹介した「素尊山」の「屏風岩」で身投げをした宇豆姫と三角関係にあった二人である。
小糸姫は地恩郷の女王黄竜姫となり、二人はその左守と右守で、宇豆姫は梅子姫の侍女である。宇豆姫は右守の鶴公を好いている。
「日夜に慕ふ鶴さまに 夢になりとも吾思ひ 伝へ給へよ三五の 道を守らす須勢理姫」(二十五巻三章「鶍の恋」次も同)
しかし、黄竜姫は左守の清公と夫婦になるよう命じる。
「宇豆姫は胸に警鐘乱打の響き、地異天変突発せし狼狽へ方をジツと耐へ、さあらぬ態にて胸撫で下し、『ハイ、有り難う御座います。不束な妾の如き者を』」
その後、清公に代わって鶴公を左守に、また宇豆姫に、その妻になるよう黄竜姫が命じて、宇豆姫は悩む。
「宇豆姫は恋と義理との締木にかかり、何と言葉もなく計り身を悶へ」 (二十五巻四章「望の縁」次も同)
しかし、鶴公は左守となるのを拒む。なお黄竜姫が命じると、宇豆姫は青淵へ身を投げる。
「宇豆姫は耐り兼ね、『何れも様、是が此世の御暇乞ひ…』千仭の断崖絶壁より、渓間の青淵目蒐けて、身を躍らし…『惟神霊幸倍坐世』と合唱し乍ら、ザンブと許り落ち込んだ」
話はさらに展開し、宇豆姫と、宇豆姫を助けたスマートボールが夫婦となる。このストーリーの舞台となる断崖絶壁が、「素尊山」の「屏風岩」である。
恋心を細やかに描いた霊界物語の世界が、現実界と一体化している。霊界物語の不思議を改めて思う。
私はこの場面も車の中で録音を聞き、印象深く覚えている。 (参考:YouTube藤井盛)
○美と威厳が加わる黄竜姫
ジャンナ郷のテールス姫の夫となった友彦が攻めて来るのを見た黄竜姫が、月見の高殿から落ちる。
「火の車を挽き連れ、青、赤、黒の鬼、虎皮の褌を締め、牛の如き角を生やし攻め来る恐ろしさに、身体忽ち震動して、高殿より終に顛落、人事不省に陥り」 (二十五巻一一章「風声鶴唳」以下も同)
その後正気に帰った黄竜姫は、友彦に与えた凌辱を反省している。
「月の鏡に妾の古い傷がスツカリ写つた様な心持になり…悔悟の念に苦しむ時しも…四面咫尺暗澹となり…友彦は妾が昔彼に与へた凌辱の怨みを復さむと…火の車を以て我肉体を迎へ来る其恐ろしさ。罪にかたまつた肉体の衣を神様の御恵に依つて剥ぎ取られ」
しかし、実際には高殿から落ちてはいない。それどころか、一層の美や威厳が加わっている。
「鼈甲の如く身体半ば透き通りて一層の美を加へ、言葉も俄に涼しく且つ荘重を帯び来たりぬ」
「一入立派な御顔色、お身体の恰好までも、何処ともなく威厳の加はつた」
黄竜姫は、神様に罪を剥ぎ取ってもらったと言っているが、執着心が幻覚を起こし、罪悪の凝固たる副守護神が取り除かれている。
「要するに黄竜姫…の本守護神は、依然として此高殿に其儘の体を現はし、嬉々として月を賞しつつありしなり。身体に残れる執着心の鬼の為めに斯くの如き幻覚を起し、又其罪悪の凝固より成れる肉体は、副守護神の容器として高殿の下なる千仭の谷間に突き落されたるなりき」
「斯う迅速に向上遊ばすと言ふ事は、不思議でなりませぬ」と梅子姫が驚いているが、山賊の大頭目から宣伝使となるヨリコ姫女帝の改心が重なる。
「専制と強圧と尊貴を願ふ慾念と、自己愛の兇党連は俄かに影を潜め、惟神の本性、生れ赤児の真心に立ちかへり、一身の利慾を忘れ、神に従ひ神を愛し、人を愛し万有一切を愛するの宇宙的大恋愛心に往生した」(六十七巻一章「梅の花香」)
(令6・8・30記)
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