㉙国依別宣伝使と言霊の神力

「愛善世界」誌掲載文等

~古事記と霊界物語~

〇国依別は出口聖師

 出口王仁三郎聖師は、霊界物語第二十巻から登場する国依別は自分のことだと言われたという【註1】。  

 国依別は登場早々、「嬶泣かせの家潰し」とか「後家倒し」と紹介され、お国、お光、お福、お三、お四つ、お市、お高など多数の先妻の名も出て来る(第20巻)。三五教の宣伝使松姫も昔のお松だと言い、「俺に秋波を送る様な奴だから、代物(しろもの)がどつか違つた所がある」(第21巻)などとのろける始末である。

 出口聖師もまた、「多田琴と云ふ女である。或機会から妙な仲となつて居つた」とか「なつかしいやうな気がして、其女と同じ家に一宿することを嬉しく思うて居た」(第37巻)など、昔のことを赤裸々に語っておられる。

 さらに、国依別が立派な神様から「お前はこれから浪速の里へ()て苦労せよ。一人前になつたら世界を順礼せい」(第20巻)と言われたのに対し、出口聖師も大阪に初宣伝の時に、老易者から「これからお前サンの丹波に帰つてから十年間の艱難辛苦といふものは、今から思ふても真に可哀相な気がする」(第37巻)というように、二人とも若い時の苦労を告げられている。

 また、国依別は高姫の「揶揄(からかい)役を仰せ付けられて居る」(第27巻)。玉から執着が離れない高姫を、偽神がかりで竹生島に玉探しに行かせたり(第25巻)、重箱に石を詰めて贈り、「如意宝珠玉さへ噛る狂女哉、岩さへも射貫く女の心哉」(第27巻)と皮肉っている。

 しかし、玉の執着をとってやろうとする揶揄(からかい)も愛情表現である。また、松姫とのロマンスについても、国依別の話をウラル教の捕り手六人が聞き、「心の底より国依別の洒脱なる気品に惚込」んで三五教に改心してしまうのである(第21巻)。 

 こうした人間味溢れるところも出口聖師に通じており、「聖師に面会すると、そのとたんに一切を忘れてよい気分になり、空っぽだった身魂が充実して来るのか何もかも忘れて、充ち足りたよろこびにひたる」【註2】とあるとおりである。

 【註1】新月の光(下巻)第六章 昭和二十年
 【註2】『愛善世界』令和2年2月号 「三千世界の大化物を観る」大国以都雄氏

〇国依別と言依別の一体的活動

 さて、国依別を語るに何より特徴的なのが、国依別が、三五教教主の言依別と一体的に活動していることである。

 二人は、飢餓に苦しむ村人に、昔から食べることを禁じられていた「御倉魚(みくらうお)」を食べさせて救い(第30巻)、また、琉球に渡り、琉の玉の精霊を言依別が、球の玉の精霊を国依別がそれぞれ腹に吸っている(第27巻)。

 そして、二人はヒルの国の大地震を鎮め(第31巻)、アマゾン河に住むモールバンド、エルバンドの怪獣を逃げ去らしている(第32巻)。

 なお、素盞嗚尊の分霊言霊別命が、(すくな)(ひこ)(なの)(みこと)となった後に言依別として現れており(第22巻)、出口聖師も、自分の魂が素盞嗚尊のものである【註3】と言われている。明文はないが、出口聖師が自分だと言われている国依別もまた、素盞嗚尊の分霊ではないだろうか。「茶目式で揶揄(からかい)専門、淡白で正直で面白い奴」(第27巻)と評され、どこか憎めない遊び人風の国依別を通じて、瑞霊への親しみが一層湧いてくる。

 【註3】わが(たま)は神素盞嗚の(いく)御魂(みたま)瑞の神格に充されてあり  〔第41巻第16章 余白歌〕

〇七十五声の言霊

 さて、この琉と球の玉などの御威徳が、次のとおり示されている(第27巻)。

〔琉、球の二宝〕風雨水火を調節し、一切の万有を摂受し或は折伏し、よく摂取不捨の神業を完成する神器。

五百津美須麻琉(いほつみすまる)の玉〕天ケ下に饑饉もなく、病災も無く戦争も無し又風難、水難、火難を始め、地異天変の(おそれ)なく、宇宙一切平安無事に治まる玉。

   〔第27巻第13章「竜の解脱」要約〕

 これらの玉により、宇宙一切が「平安無事」で一人も救いから漏れることのない「摂取不捨」の状態になることが示されている。さらに金剛不壊の如意宝珠について

〔金剛不壊の如意宝珠〕とも言ふ清き正しき言霊七十五声は、言霊の幸はひ助け、生き働く天地において、声あつて形なく、無にして有、有にして無、活殺自由自在の活用ある宇宙間に於て最も貴重なる宝であること。また、古事記の天照大御神の御神勅においても言向け和せ、宣り直せとあるとおりである。    

   〔第27巻第13章「竜の解脱」要約〕

 このように、金剛不壊の如意宝珠である「七十五声の言霊」が、宇宙間で最も貴重な宝だということである。これは、古事記の天照大御神の御神勅にもあるということだが、「古事記略解」(第12巻)に天の岩戸を開いたのは、この七十五声の言霊だと示してある。これがみろくの世を開くとある。

 八百万の誠の神たちがよつて来て七十五声の言霊を上げたから岩屋戸が開いたのであります。天津神の(れい)をこめたる言霊によつて再び天上天下が明かになつたのであります。

 決して鏡に映つたから天照大御神が自分でのこのこ御出ましになつたと言ふやうな訳ではありませぬ。

 言霊の鏡に天照大御神の御姿が映つて、総ての災禍はなくなり、(いよいよ)本当のみろくの世に岩屋戸が開いたのであります。

   〔第12巻第30章「天の岩戸」要約〕

 ではなぜ、七十五声の言霊がみろくの世を開き、宇宙間で最も貴重な宝であるのか。それは、言霊により宇宙が創造されたからではないだろうか。

 大虚空中に一点の(ほち)忽然(こつぜん)と顕れ初めて⦿()の言霊生まれ出で、⦿()の言霊こそ宇宙万有の大根源にして、遂に⦿()は極度に達してウの言霊を発生せり。ウの活動極まりてアの言霊を生めり。ウは降っては遂にオの言霊を生む。七十五声の神を生ませ給ひ、至大天球を創造した。

   〔第73巻第1章「天之峯火夫の神」要約〕

 一点の(ほち)から⦿()、ウ、ア、オの各言霊が順に生まれ、そして七十五声の神が生まれて至大天球が創造されたということである。

 なお、「日本人は円満晴朗なる七十五声を完全に使用し得る高等人種」だとある(第32巻)。

 また実際に、ヒルの国に起きた大地震を鎮めたのは、国依別と言依別の「言霊の神力」であった。

 国依別が、国の大御祖国治立命、豊国姫命、国魂の神を念じ、霊力を籠めて天の数歌ウの言霊を発射すると、大地の震動や諸山の噴火、洪水がピタリと止まり、そこに国依別が現はれて天津祝詞生言霊を宣ると、一切の地異天変が再び安静に帰したのは生言霊の神力である。

   〔第31巻第3章「救世神」要約〕

 出口聖師は、この霊界物語のヒルの国の大地震の箇所を、関東大震災のあった大正十二年九月一日の当日、震災発生の知らせがまだ届かない熊本県山鹿において、信者に読ませておられる。

 また、出口聖師自身も入蒙の際、生言霊の力を示され、激しい暴風雨のなか天に向かって「ウー」と大喝されると、暴風雨は夢の如く消え去っている(入蒙記)。

〇水分(みくまりの)神(かみ)

 ところで、琉と球の玉は、国依別の言霊により解脱した竜の(あぎと)から得たものである。一方、玉を二人に渡した竜は、三千年の三寒三熱の苦行を終了し一切の執着を去り、(あめ)水分(みくまりの)(かみ)という降雨を調節される大神となられている(第27巻)。

 なお、奈良吉野山にある吉野水分神社を、私は平成三十年八月に訪れた。「みくまり」は「みこもり」となまり子授けの神ともなり、現在の社殿は豊臣秀頼により創建(一六〇五)されている【註4】。私の妻の願いがかなったのであろう、妻が逝った後に上の娘が子を授かった。

 吉野を訪れた翌日、神戸市三宮の祭神が(わか)(ひる)女尊(めのみこと)である生田神社を参拝した。これが妻との最後の旅行先となったが、この生田神社もまた二つの玉に関係している。

 言依別と国依別が、それぞれ琉と球の玉の精霊を腹に吸った後、この二個の玉の入った玉手箱を若彦と玉能姫が生田の森に持って行き、大功を顕している(第27巻)。

 【註4】ウィキペディア

〇一輪の秘密

 言依別が、「琉の玉は潮満の玉、球の玉は潮干の玉」だと言っている(第27巻)が、実は、この潮満の珠、潮干の珠が第一巻(第35章「一輪の秘密」)にすでに出ている。

 そして「一輪の秘密」とは、この潮満の珠と潮干の珠、さらに真澄の珠の三個の神宝を、世界終末の際に世界改造のため大神が使用される御神業だと示してある。

 また、紅色を帯びた潮満の珠は、厳の御魂とか豊玉姫神といい、純白色の潮干の珠は瑞の御魂とか玉依姫神といい、竜宮島ともいう(かんむり)(じま)に納められている。そして、冠島の国魂の御名を(うみ)(ばら)(ひこの)(かみ)綿(わた)()(みの)(かみ)というとある。さらに真澄の珠は、鬼門島ともいう(くつ)(じま)に納められている。

 つまり、大本に現れられた厳瑞の御魂に真澄の珠を加えての御活動、いわば、大本の出現自体が「一輪の秘密」とも言える。

 また、これらの冠島や沓島は、国祖国常立尊が神言を奏上しながら海上に投げられた国祖の冠と沓からできた島々である。そして、国祖の大神は沓島にご隠退されることとなるのである。

〇古事記と霊界物語

 ところで、この霊界物語第一巻に出てきた潮満の珠や潮干の珠、豊玉姫、玉依姫、海原彦神、綿津見神は、古事記や日本書紀に出て来る名称で、神武天皇出生の前段を形作る重要な玉や人物である。また、古事記では「海幸彦と山幸彦」として美しい物語を為している。

 一方、天照大神と素盞嗚尊との誓約(うけひ)をはじめ霊界物語で展開されるストーリーの多くが、記紀神話を基としたものになっている。

 たとえば、古事記に「筑紫島に面四つ、筑紫国は白日別、豊国は豊日別、肥国は(たけ)()(むか)()(とよ)()()()()(わけ)、熊曾国は建日別」という島々の生成の箇所がある。これに対応するかのように、霊界物語第七巻(第五篇「亜弗利加」)にも「筑紫の洲に面四つ」とあり、日の出の神が筑紫の島を回り、白日別や豊日別、(たけ)日向(ひむか)(わけ)、建日別をそれぞれの国の守護職となして、純(澄)世姫命の神霊を国魂に祀る物語が展開されている。

 また、霊界物語にある「言霊(げんれい)(かい)」(第8巻・10巻)や「古事記略解」(第12巻)、「古事記言霊(ことたま)(かい)」(第15巻)において、先の「天の岩戸開き」のように、言霊で岩戸が開いたという、古事記に関して独自の解釈がなされている。

 このように、大本の教えは記紀神話、特に古事記と深く関わっている。教えを学ぶ上で、古事記を基本的な教養として身に着ける必要性を改めて感じる。

 ちなみに、古事記の「海幸彦と山幸彦」の物語に、豊玉姫が夫山幸彦の()()(りの)(みこと)を慕う歌がある。

  赤玉は()さへ光れど
    白玉の君が(よそひ)し貴くありけり
           〔古事記上巻「()遠理(をりの)(みこと)」四〕

 赤い玉は、それを貫く緒まで光るほど美しいが、それにもまして、白玉のようなあなたの姿が気高く立派に思われるという意味【註5】だが、この赤玉と白玉は、先に霊界物語第一巻「一輪の秘密」の中で示された潮満の玉の紅色と潮干の玉の純白色を連想させる。  

 【註5】次田真幸著 古事記(上)全注釈 講談社学術文庫

〇琉球の国魂神

 ところで、この豊玉姫と琉と球の玉に関して、山川日出子さんの「琉球国魂神の霊石」と題する文章がある【註6】。概要は次のとおりである。

 昭和三年元旦、沖縄の波の上神社に参拝された出口聖師が、山川さんに小石を二つ渡された。これを昭和十年の事件中に、ご主人の生家鳥取でお祀りした際に「豊玉姫」とのご神示が山川さんにあった。

 その後、出口聖師が獄から出られて、山川さんが亀岡に帰ったところ、聖師から「大本でも豊玉姫は祭ってある」と言われた。また、聖師は小石が琉球の「国魂神」であるという歌も残しておられた。

  斎垣(いみがき)の小石もらいて琉球の
    国魂神と永遠に斎かむ (昭和三年元旦)          

                 

 その後、「国魂神さんはお帰りの時期ではないか」と山川さんがふと思われ、昭和四十七年三月、出口直美現四代教主様が琉球主会長の崎山氏に渡され、沖縄の波の上神社に鎮祭された。

 琉球に関する二つの石となると、琉と球の玉、あるいは潮満、潮干の玉を連想する。加えて「豊玉姫」は琉の玉や潮満の玉となり、よりその連想は強まる。

 なお、国魂神の霊石が沖縄に再び帰ったのが、昭和四十七年三月であるが、その年の五月に沖縄が本土復帰を果たしている。

 沖縄の米軍統治が終了し、本土復帰となるのを待っていたかのように霊石が沖縄に帰り、本来の国魂神として祀られたということになる。

 【註6】『おほもと』昭和四十七年五月号「琉球国魂神の霊石」  『愛善世界』平成九年五月号に転載。

〔琉球の国魂神の霊石〕
縦横約三センチ、どちらも上部に白線の輪、冠島・沓島を想わせる。

〇神功皇后に関する山口の民話

 関門海峡に、源平合戦の壇ノ浦の戦いで源氏軍が拠点としたという満珠(まんじゅ)島、干珠(かんじゅ)島という二つの島がある。山口県下関市にある忌宮(いみのみや)神社、かつて仲哀天皇が穴門(あなど)豊浦(とよらの)宮という仮の皇居を七年間置いた所であるが、二つの島は現在この神社の飛び地境内になっている。

 この仲哀天皇のお后である神功皇后が、豊浦宮のある豊浦津(とゆらのつ)で「如意の珠」を海で拾われた話が日本書紀にある。これをベースにしたのであろうか、霊界物語の潮満、潮干の玉を思わせる民話が地元にある。

 民話は、神功皇后が三韓征伐の折、龍神から満珠(まんじゅ)干珠(かんじゅ)の玉を授けられ、玉が持つ潮の満ち(ひき)の力を用いて新羅(しらぎ)の軍を負かし、その後、海に沈めた満珠、干珠の二つの玉から満珠島、干珠島が生まれたというものである。山口県小学校教育研究会国語部編集の「山口の伝説」に収められている。

 琉と球の玉、あるいは潮満と潮干の珠の話は、記紀神話と霊界物語をつなぎ、また古代のみでなく現代のことでもあり、さらに沖縄から私の地元山口にまで及んでいる。幅の広い話となった。

        (令2・3・28記)
〔『愛善世界』令和2年8月号掲載〕

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