㉚新型コロナウイルスと信仰の力

「愛善世界」誌掲載文等

 新型コロナウイルスに関する新聞記事の中に、ヘブライ大学教授ユヴァル・ノア・ハラリ氏へのインタビュー記事があった(朝日新聞四月十五日)。氏は世界的ベストセラー「サピエンス全史」(邦訳)がある歴史学者である。次のように答えている。

「情報を得て自発的に行動できる人間は、警察の取り締まりを受けて動く無知な人間に比べて危機にうまく対処できる」「感染症ははるか昔から存在する。グローバル化がなければ感染症は流行しないと考えるのは間違い。文化も街もない石器時代に戻るわけにはいかない」「感染症は全世界が共有するリスク」「一九一八年のスペイン風邪は、一八年春には第一波が世界中で流行。その後、ウイルスが突然変異し、一八年夏からの第二波で死亡率が五~一〇%に上がり、二〇%の国もあった。さらに第三波もあった」(要約)

 こうした歴史学者らしいコメントに続き、新型コロナウイルスのもたらす社会の兆候に触れている。

「危機の中で、社会は非常に早いスピードで変わる可能性がある。世界の人々が専門家の声に耳を傾け始めているのはよい兆候」

〇貪(どん)・瞋(しん)・痴(ち)の三毒

 何より私が驚いたのは、次の言葉である。

 「悪い変化もある。我々の最大の敵はウイルスではない。敵は心の中にある悪魔で、憎しみ、強欲さ、無知。この悪魔に心を乗っ取られると人々は互いを憎しみ合い、感染をめぐって外国人や少数者を非難し始める。これを機に金もうけを狙うビジネスがはびこり、無知によってばかげた陰謀論を信じるようになる。これらが最大の危険」
   (要約)

 これらの「強欲さ」「憎しみ」「無知」の三つの言葉は、仏教にいう貪欲の「貪」、憎しみ=瞋恚(しんい)の「(しん)」、無知の「痴」の「三毒」に他ならない。これをユダヤ教徒であろうイスラエル国立大学の教授が用いていることに驚いた。同教の教典旧約聖書にも同様の内容があるのだろうか。

 ところで、三毒は霊界物語にも出ている(第二巻第五○章「鋼鉄(まがね)(ほこ)」)。三毒をふくめる悪神の主将八王大神が、神国別が言う「天下は圧力武力では治まらない」という神理を聞き流して殺そうとし、さらに国治立命にまで打ってかかろうとしたという話である。

〇病神(やまひがみ)と大本神諭

 この国治立命、つまり国祖国常立尊の大神が出口なお開祖に懸られて述べられた『大本神諭』の明治三十一年旧五月五日のお示しに、病気と信仰に関係した箇所がある。

 「(やまひ)(がみ)其所等(そこら)一面に()()かして、人民を残らず苦しめやうと(たく)みて、人民のすきまをねらひ(つめ)()りても、神に(すが)りて助かる事も知らずに、外国から渡りて来た悪神(わるがみ)の教えた、毒には成っても、薬には成ならぬヤクザものに、沢山の金を出して、長命(ながいき)の出来る身体(からだ)を、ワヤに()られて()りても、夢にも悟らん馬鹿な人民(ばか)りで」

神に(すが)れば病神(やまひがみ)から身が助かるとある。つまり、信仰の力で病気から身を守ることができるという、信仰する者にとってたいへん心強いお示しである。

〇ペストと霊界物語

 また、「病神が人民を苦しめる」ことが、霊界物語にもある。「黒死病(ぺすと)の由来」との章名が付けてある(第二巻第五章)。

 悪神偽美山彦が発生させた邪気が変化した病魔神(やまひがみ)に、神国別の神軍が冒されて多数が死滅し、この病魔が世界に拡がりペストの病菌となったと示されている。実際の歴史においても、ペストは十四世紀に大流行し、欧州は人口の三分の一を失っている。

 その後、神軍の佐倉姫が天の木星に救援を願うと、(さかき)の枝が降って来て、これに神霊を取懸けて左右左と振ったところ、東風が吹き、邪気は遠く散逸して消滅してしまうのである。そして神軍は蘇生する。つまり祓い清めによってペストは消滅してしまうのである。この祓い清めの神力もまた、信仰の力に他ならない。

〇スペイン風邪と神霊界「随筆」

 出口王仁三郎聖師が、スペイン風邪のことを大正九年の神霊界に書いておられる。大正九年は一九二〇年であるから、死亡率が上がった一九一八年夏の第二波以降の執筆である。二箇所見受けられる。

 最初に出て来るのは一月一日号である。「愛善世界」誌五月号のみろく大祭の報告(六三頁)に原文の一部が掲載されているが、スペイン風邪が国内にはびこり始めた時の注意が述べられている。

「流行性感冒により新舞鶴町で日々十人の死者が出ている。衛生上の注意を怠らないことと浄き信仰により心身の健全を計ること。いよいよとなれば、政府は全ての興行物の停止学校の休校などの防止手段を積極的に取るとともに敬神の行動を取ること」(要約)

 衛生面の注意や興行の中止、学校の休校など、現在取られているのと同様の感染防止策が示されているとともに信仰の必要性が唱えられている。

 次に出て来る二月十一日号では、感染が進んだのか、出口聖師は「()()至る所に滑稽を演じて()る」とし、特に島根県の大根島は「最も甚だしい」と評しておられる。

「流感で八九十人の患者と数名の死亡で住民が非常に恐怖、小学校の休校や家業の中止、郵便物の停滞、村議会招集に応じない議員、招集に応じたものの沿道の患者の多さに縮み上がってそのまま役場の食客となった議員、伝染を恐れ罹患した家族の見舞いに行かない家族、親族総代一人立会のみの葬儀という全島大怠業という通信あり。島の住民のみならず、今度の流感に()いて、全国の人民の狼狽さ加減と云うものは、実に愛想が尽きる」(要約)

 滑稽に見えるほど、あまりに全国民がスペイン風邪に狼狽しているということだが、それは人々が体主霊従で、天地経綸の司宰者たるの役目を果たさず、信仰心がないからだと次のように強い口調で言っておられる。

 「何れも皆日本の神国たる所以(ゆえん)を忘れて、体主霊従主義に心酔して了って居るから、彗星を恐れたり、流感ぐらいに閉口垂れて了ふのである。そんな意志の弱い事で、日本神国の神民と云はれやう()天地経綸の司宰者と呼ぶ事が出来やう乎。(つね)敬神の念慮無きものは、()んな時に第一番に腰を抜かして震い上るものである」

 なお、このスペイン風邪での世界の死者は数千万人とも言われているが、新型コロナウイルスの死者約二十九万人(五月十三日現在)とは桁違いの多さの中での出口聖師の言葉である。

〇信仰に励む

 ハラリ教授が「専門家の声に耳を傾け始めたのはいい兆候」と言っているとおり、私たちは専門家が呼びかけている「三密」などの感染防止策を取るとともに、何より、教典等に示されている「信仰の力」こそが重要な感染防止策であることを改めて認識し、一層の信仰に励むべきである。これはみろく大祭の報告の中で、「正しき神の道を歩む」「ご神力の発動による禊ぎ祓いをお願いする」と同主旨である。

 そして、みろく大祭での出口直子さまのご挨拶(二五頁)のとおり、「感染の拡大が一日も早く収束して、穏やかな日が戻」るよう願いたいものである。

〇三毒を改める

 最後にハラリ教授の言葉を紹介したい。教授は、(どん)(しん)()の三毒を改めれば危機を乗り越えられ、世界をよりよいものとすることができると語っている。

「我々はそれ(三毒)を防ぐことができます。この危険のさなか、憎しみより連帯を示すのです。強欲に金もうけをするのではなく、寛大に人を助ける陰謀論を信じ込むのではなく、科学や責任あるメディアへの信頼を高める。それが実現できれば、危機を乗り越えられるだけでなく、その後の世界をよりよいものにすることができるでしょう。我々はいま、その分岐点の手前に立っているのです」

        (令2・5・14記)
〔『愛善世界』令和2年7月号掲載〕

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