藤井 盛
平成二十四年十二月十四日、我が家の墓掃除に向かった。朝の九時半ごろである。
墓掃除は好きな方であるが、病気のため三年間行けなかった。ようやく体調が戻り始めたため、墓掃除に行ってみようという気になったのである。
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墓は、山に少し入ったところの集落の共同墓地の中にある。入り口には六地蔵が並び、右側には堤がある。 がんぜきや鎌などを持ち、その入り口に差しかかった時、突然、左手の木の茂みの高いところから、フクロウがばたばたと飛び出した。
白ではないが色は薄かったと思う。飛び出した途端に一羽のカラスに追いかけられて、さらに左手の方へと飛んで行ったと思った瞬間、その左手から飛んで来て、自分のすぐ前をさあっと突っ切って行った鳥がいた。
それは右手の堤へと一直線に、まるで定規で線を引いたかのように、ほんとに真っ直ぐに飛んで行った。鷹であったか、小型で、堤の水面をあっという間に飛び去った。これらは、一瞬の出来事であったが、続きがまだある。
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我が家の墓は寄せ墓にしてあり、昔の個々の墓石は寄せ墓の周りに倒されている。
墓の敷地の後ろは大きく落ち込んでおり、その境に桜の木があった。桜の木は、我が家の墓の背面だけでなく、共同墓地の周囲に十本程度植えられていたが、大きくなったからというのだろう、すべて切り倒され、根元が残っていた。
私が墓掃除に行ったとき、その根元から新しい枝が何本か出ており、一メートルほどの高さになっていた。寄せ墓の斜め後ろの位置である。
墓地は山の中で、午前中、鳥がよく啼くときもある。この日も啼いていたかどうか、よくは覚えていないが、掃除を始めてしばらくたったころだったと思う、突然、その桜の枝に、小鳥たちが群がったのである。
一メートルほどの枝に、二、三十羽いただろうか、今まで見たことのない小さい鳥である。もぶれついて、塊となったところへ目白も二、三羽飛んで来て、小鳥たちが盛んにざわめていた。さえずりも盛んだったように思うが、聴覚の記憶はイマイチである。
自分のいるところから二メートルも離れていない、一メートル半ぐらいだったろうか、手をもう少し伸ばせば、届くのではないかと思われた。
そして、そのうちの一羽が、私の一メートル前にあるセイタカアワダチソウに止まった。ほんとに手が届きそうである。セイタカアワダチソウが、わずかにたわんだ。青っぽいこの一羽をよく観察しておき、家に帰って野鳥図鑑で調べた。 この一羽が飛び去ると同時に、みんな飛び去って行った。強烈な印象であったが、二、三分間のことだっただろう。
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この小鳥は、キクイタダキという、日本で一番小さくて軽い鳥であった。体長十センチで六グラム。頭頂にある黄色の羽毛を菊の花に譬えて、その名になっている。
今回、自然観察公園の担当者に聞いてみた。
すると、キクイタダキは冬場、里に下りてきて、人を恐れず近くにやって来ること、また、種類の違う小鳥が群れることもあるということ、鷹はハイタカと言われるもので、冬場は小鳥を狙うこと、さらに、カラスは、とにかくフクロウを追いかけるとのことであった。
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「そういう自然豊かなところにおられて、いいですね」と言われた。確かに、我々が住む地域で冬場、これらの三種類の鳥に同時に出会うことは、偶然にせよ、あり得ることなのだろう。
しかし、こうした経験は、それ以前も、またその後も、あるいは、これらの鳥の一種類にも出会ったことはない。
私は、これらの鳥たちを通じて、御先祖様たちが、私の三年にわたった病気からの回復への祝いと、「さあ、これから頑張れ」との励ましを、お伝えになったに違いないと思っている。
昔、我が家で、雀を十三羽捕ったとき、その引き換えのように、おそらくイタチのしわざであろう、飼っていた鶏の雛、十三羽を捕られたことがあると聞いているので、まんざらでもないのである。
(平28・6・8記)
〔『愛善世界』平成30年5月号掲載〕
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