㉞渋沢栄一と霊界物語

渋沢栄一の像 「愛善世界」誌掲載文等

 霊界物語第四十七巻( 第一○章「震士震商」)に、この二月から始まったNHK大河ドラマ「青天を()け」の主人公 渋沢栄一をモデルにしたと思われる慾野深蔵が登場する。

 「約五百の企業を育て、約六百の社会公共事業に関わった『日本資本主義の父』。青天を()くかのように高い志を持って未来を切り開き…『緻密な計算』と『人への誠意』を武器に、近代日本のあるべき姿を追い続けた」(ネット:二○二一年大河ドラマ「青天を衝け」出演者発表!〈第1弾〉)とNHKは、世間で言われているのと同様に渋沢栄一を高く持ち上げている。

 しかし、渋沢栄一をモデルにしたと思われる霊界物語の慾野深蔵は「地獄道の大門口へ放り込」まれ、「トボトボと慾界地獄を指して進み行」っているのである。

 ところで、霊界物語第五十巻(第一章「至善至悪」)に次のように示してある。

 『肉体人は如何なる偽善者も虚飾も判別するの力なければ、賢者と看做(みな)し、聖人と看做して、大いに賞揚することは沢山な例がある』

 現界人は人を見る目がないということである。はたして、慾野深蔵のモデルが渋沢栄一であるのか、また、渋沢栄一も、偽善者を賢者・聖人と賞揚した例の一人ということになるのか追ってみた。

渋沢栄一

名前と叙位叙勲

 渋沢栄一のことを具体的に指摘した箇所が、霊界物語第四十七巻に出てくるが、この裏付けとなる事実を示した本がある。岩波新書の島田昌和著「渋沢栄一 社会企業家の先駆者」である。霊界物語と岩波新書で関係箇所を比較してみる。

 まず、名前と叙位叙勲の履歴である。

① 名 前

 霊界物語 『其方は慾野深蔵と云つたな、幼名は(しぶ)(がき)(どろ)()()(もん)と申さうがな』

 霊界物語に出て来る名前は「柿泥右衛門」で、岩波新書に出て来るのは父親の名で「沢市郎右衛門」である。しかし、市郎右衛門は渋沢家で代々継がれる名であり、渋沢栄一の名でもある。

 岩波新書 『父は渋沢美雅といい、同時に当主として代々市郎右衛門を称していた。しかしながら栄一の父はこの家に生まれたわけではなく、村内随一の土地や財を保有している「東の家」と呼ばれた渋沢宗助の三男であり、婿養子に入って宗家を継いだのであった』

② 叙位叙勲

 霊界物語 『俺をどなたと心得て居る。(しやう)()() (くん)()(とう) ()(しやく) ()(ぞく)(いん)()(ゐん) 慾野深蔵といふ紳士だ』

 慾野深蔵は自分を「傷死位 窘死等 死爵 鬼族婬偽員 慾野深蔵」と誇っている。これを実際に渋沢栄一が受けた叙位叙勲に当てはめてみる。

 明治三十三年に受けた「正四位」が傷死位に、また、明治二十五年の「勲四等瑞宝章」が窘死等に、大正九年の「子爵」が死爵に、さらに明治二十三年の「貴族院議員」が鬼族婬偽員にそれぞれぴったり当てはまる。しかも、当ててある漢字が傷や死、窘(苦しむ)、鬼、(みだら)、偽などの悪い意味のものばかりである。これは渋沢栄一のことだろうか、あるいは叙位叙勲制度のことを言っているのであろうか。

 さて、以上のことより、慾野深蔵が渋沢栄一を指しているのは明らかであるが、次からの説明で一層確かなものとなる。

渋沢栄一の資産形成のカラクリ

 NHKは渋沢を「約五百の企業を育て」と誉めているが、渋沢と企業との関係について霊界物語には次のように示されている。

③ 優先株

 霊界物語 『優先株だとか、幽霊株だとか申して、沢山な(かぶら)や大根を、金も出さずに吾物に致しただらう』

 昭和六十三年に発覚したリクルート事件では、政治家九十人に賄賂として未公開株が譲渡されているが、渋沢も優先株を金を出さずに自分のものにしていると霊界物語は言っている。

 優先株は、配当利益を優先的に受けることができる株である。明治時代は高配当政策により資本家の資産形成がなされており、当然優先株がその手段となる。渋沢も収入の六○パーセントを株式配当により得ているが、渋沢には他の財閥とは違い、株を買う資産は元々ない。優先株をただでもらったという霊界物語の説明は筋が通っている。

 では、どのように優先株を渋沢は得たのか。明治時代の株主総会は経営側と株主との利害調整が大変であったという。そうした中、企業の創立総会で渋沢の名が力を発揮し、経営側を後押ししている。

 「総会屋」と言えば響きが悪いが、助けた経営者から謝礼として優先株をもらっていたのか、あるいは要求していたのか、いずれにせよ、優先株を企業からただでもらえる立場に渋沢はあったということである。

 岩波新書『◇明治時代には会社の高配当政策によって資本家の資産形成がなされた。渋沢においては家計に占める保有株式からの配当収入が大きく、渋沢の収入は、その六〇%強を保有する会社の株式配当などから得て。財閥や大商家、大地主のような富の源泉を持たない渋沢。

 ◇明治期の株主総会は、株主の利害の相違の表明があり。経営者と出資者の利害が著しく対立して紛糾する局面ともなった。特に創立総会において役員の決定を後押しすることが渋沢に期待された大きな役割であった。私欲の渦巻く中で発起メンバーの意思を通すために「渋沢栄一」の名が果たした役割は小さくなかった』

④ 金貸し

 霊界物語 『娑婆で金貸しをして居つた時にや、寝とつても起きとつても、時計の針がケチケチと鳴る内に、金の利息が、十円札で一枚づつ、輪転機で新聞を印刷する様に、ポイポイと生れて来た』

 霊界物語にあるように、個人への多額の貸金を積極的に行っているのも渋沢の資産形成の特徴である。また、「十円札の印刷」という語句が霊界物語にあるのを見ると、今度、一万円札に渋沢の肖像が用いられることが皮肉のように聞こえる。

 岩波新書 『個人への融資に消極的な金融機関に代わって個人に対する多額の貸付を積極的におこなう渋沢。「匿名組合」への出資が株式会社への出資を上回っていて、個人への貸付が出資に迫るほどの多さであった』

⑤ 長男の廃嫡

 霊界物語 『慾にかけたら親子の間でも公事(くじ)を致したり、又人の悪口を針小棒大に吹聴致し、自己の名利栄達を計り、身上を(こしら)へた真極道だらう』

 公事とは裁判という意味である。渋沢は、家の資産管理のために親子及びその配偶者という身内で定めた約束事により、長男を廃嫡している。廃嫡とは嫡子の相続権を廃することであるが、我が子の幸せよりも家の財産が大事ということである。その欲深さを霊界物語は指摘している。

 また、「極道」とはヤクザである。霊界物語は渋沢を「人の悪口を針小棒大に吹聴し、自己の名利栄達を計って身上を(こしら)へた真極道」と酷評している。「青天を()くかのように高い志を持ち、人への誠意を武器にする」という世間の評価とは真反対の人物だということである。まさに「肉体人は如何なる偽善者も虚飾も判別するの力なければ」と霊界物語 第五十巻にあるとおりである。

 岩波新書『渋沢同族会は、「同族の財産及年々の出入を監督せしむる」目的で、正式な渋沢の家族の資産管理をおこなっていた。同族会は課された役割を果たせないメンバーは嫡男といえども排除するという厳格な運用が課せられ。明治四十五年一月、栄一の長男・篤二の廃嫡方針を同族会で決定した』

⑥ 鉄道会社の社長

 霊界物語 『其方は娑婆に於て、殺人鉄道 嵐脈(らんみやく)会社の社長兼取締役を致して居つたであらう』

 渋沢の鉄道会社の経営に関する記載が、文春文庫の鹿島茂著「渋沢栄一下 論語篇」にあった。  

 確かに、霊界物語にあるように渋沢は、韓国の京釜鉄道株式会社などの取締役に就いている。また、文春文庫では、渋沢は前経営者の人夫虐待に憤慨したとあるが、「殺人鉄道」とあるように渋沢も人夫を虐待しながら敷設工事を行ったのかもしれない。あるいは、鉄道が軍事目的であったことを指して「殺人鉄道」と言っているのかもしれない。 

 文春文庫『渋沢社長は韓国に渡りて親しくモールスの工事を視察したるに、就中韓人夫を虐使するの弊甚だしく。渋沢はモールスの工事に憤慨し、人夫たちの待遇改善を要求した。京仁鉄道合資会社と組織を変更し、渋沢がその取締役社長に就任した。明治三十二年五月のこと。渋沢は、軍事目的で鉄道を敷設したがっている山県・桂の政策に乗る形で、政府の補助と援助を引き出す。三十四年六月には、京釜鉄道株式会社を設立し、自ら取締役会長に収まった』

英雄豪傑などの霊界での哀れさ

 このように欲深い極道となったことを、慾野深蔵は「娑婆の規則に依つて止むを得ず優勝劣敗的行動を致し」とか、「社会の組織制度が、さうせなくちやならない様に」など、娑婆世界のせいにしている。また、法律の内容や精神が「法文の裏をくぐるべく仕組まれて」あり、「之をうまく切抜ける者が、娑婆の有力者と云ふ者」だと開き直っている。

 そして慾野深蔵は慾界地獄に進むが、出口王仁三郎聖師が霊界に行かれた時、古今の英雄豪傑などと言われた人々が、実は現界で自愛と世間愛に惑溺し神を認めなかったため、霊界で哀れな姿でいるのを見ておられる。また、彼らと同様な現代の政治家たちの行く末も憐れんでおられる。先に森友・加計学園問題で追求をうまく切り抜けた政治家などのことも、きっと出口聖師は憐れんでおられるに違いない。

 私たちは、自愛や世間愛から離れて心から神を信じる信仰者となるとともに、霊界物語に示された救いの御教えを世間の人々に伝えていく使命がある。

 『霊界を見聞したる時、わが記憶に残れる古人又は現代に肉体を有せる英雄豪傑、智者賢者といはるる人々の精霊に会ひ…彼等の総ては自愛と世間愛に在世中惑溺し、自尊心強く(かつ)神の存在を認めざりし者のみなれば、霊界に在りては実に弱き者、貧しき者、賤しき者として遇せられつつあつた…之を思へば現代に於ける政治家又は智者学者などの身の上を思ふにつけ、実に憐愍(れんびん)の情に堪へない思ひがするのである』   
   (第五十巻第一章「至善至悪」)

〔後 記〕

 前回の大河ドラマ「麒麟がくる」の二月七日の最終回、信長への謀反を明智光秀が亀山城で部下に伝える場面があった。そして、その亀山城の床の間には大きな三日月が描かれてあった。

 その亀山城跡を出口聖師は購入された。聖地として整備し大正十四年二月、「天恩郷」と命名され今日に至っている。ドラマの三日月の場面から、出口聖師の()(みたま)である素盞嗚尊が「月の大神」と呼ばれていることが思い浮かんだ。

第四十七巻第一〇章「震士震商」(一二四三)

 治国別、竜公両人は伊吹戸主の神の関所に於て優待され茶果を饗応せられ、少時休息してゐると、其前をスタスタと勢よく通りかかつたデツプリ肥えた六十男がある。

 赤顔の守衛はあわてて、其男を引きとめ、
 『コラ待てツ』
と一喝した。男は後振返り、不機嫌な顔をして、

 『何だ天下の大道を往来するのに、待てと云つて妨げる不道理な事があるか、エー、〔②〕俺をどなたと心得て居る。傷死位 (くん)死等 死爵 鬼族婬偽員 慾野深蔵といふ紳士だ。邪魔を致すと、交番へ引渡さうか』

 『オイ、其方はここをどこと心得て居る』

 『言はいでもきまつた事だ。野蛮未開の北海道ぢやないか』

 『其方は何うして此処へ来たのだ』

 『空中視察の為、飛行機に乗つて居つた所、プロペラの加減が悪くて、風波でこんな方へやつて来たのだ。()うだ、俺を本国へ案内してくれないか、さうすりや腐つた酒の一杯も呑ましてやらぬこともないワイ』

 『コリヤコリヤ慾野深蔵、ここは冥途(めいど)だぞ、(あめ)八衢(やちまた)を知らぬか』

 『鳴動も爆発もあつたものかい、そんなメードウな事を云ふない、俺こそはフサの国に於て遠近に名を知られた紳士だ……否紳士兼紳商だ。男のボーイに酒をつがす時には男酌閣下で、自分一人ついで呑む時には私酌閣下だ。エヽーン、そんなおどし文句を並べて、鳴動だの、破裂だのと云はずに、俺の案内でもしたらどうだ、貴様もこんな所で二銭銅貨の様な顔をして、しやちこ張つて居つても、気が利かぬぢやないか。銅銭ロクな奴ぢやあろまいが、俺も大度量をオツ放り出して、椀給で門番にでも救うてやらう』

 『コリヤ深蔵、貴様はチツとばかり酒に(くら)ひ酔うてゐるな、今紳士紳商だと(ぬか)したが〔⑤〕慾にかけたら親子の間でも公事(くじ)を致したり、又人の悪口を針小棒大に吹聴致し、自己の名利栄達を計り、身上を(こしら)へた真極道だらう、チヤンとここな帳面についてゐるのだ、何程娑婆で羽振がよくても霊界へ来ては最早駄目だ。サ、ここの(はかり)にかかれ、貴様の罪を測量してやらう』

 『さうすると、此処はヤツパリ冥途でげすかなア』

 『気がついたか、貴様は積悪の(むくい)()りて、地震の為に震死した震死代物だらう』

 『成程、さう承はれば朧げに記憶に浮かむで来ますワイ。飛行機に乗つたと思つたのは……さうすると魂が宙に飛んだのかな』

 赤面(あかづら)の守衛は帳面をくりながら、

〔①〕『其方は慾野深蔵と云つたな、幼名は渋柿泥右衛門と申さうがな』

 『ハイ、ヨク、深い所まで御存じで(ござ)いますなア、それに間違ひは厶いませぬ』

〔⑥〕『其方は娑婆に於て、殺人鉄道 (らん)(みやく)会社の社長兼取締役を致して居つたであらう』

 『ハイ其通りで厶います』

〔③〕『優先株だとか、幽霊株だとか申して、沢山な(かぶら)や大根を、金も出さずに吾物に致しただらう』

 『ハイそんな事もあつたでせう、(しか)しそれを致さねば現界に於ては、鬼族院偽員になる事も出来ず、紳士紳商といはれる事も出来ませぬから、娑婆の規則に依つて止むを得ず優勝劣敗的行動を致しました、コリヤ決して私の罪ではありませぬ、社会の罪で(ござ)います、何分社会の組織制度が、さうせなくちやならない様になつてゐるのですからなア』

 『馬鹿申せ、そんな法律が何時(いつ)発布されたか』

 『表面から見れば、左様な事はありませぬが、其内容及精神から考へれば、法文の裏をくぐるべく仕組まれてあるものですから、之をうまく切抜ける者が、娑婆の有力者と云ふ者です、総理大臣や或は小爵や柄杓や疳癪などの高位に昇らうと思へば、真面目臭く、法文などを守つて居つちや、娑婆では犬に小便をかけられ猫にふみつぶされて(しま)ひますワ。郷に入つては郷に従へですから、娑婆ではこれでも立派な公民、紳士中でも錚々(さうさう)たる人物で(ござ)います、ここへ来れば、凡ての行方(やりかた)が違ふでせうが、娑婆は娑婆の法律、霊界は霊界の法律があるでせう、まだ霊界へ来てから善もやつた事がない代りに、悪をやる暇もありませぬ、娑婆の事迄、死んだ子の年をくる様に、こんな所でゴテゴテ云はれちや、やり切れませぬからなア。エヽ、何だか気がせく、()(やう)な所でヒマ取つては、第一タイムの損害だ、〔④〕娑婆で金貸しをして居つた時にや、寝とつても起きとつても、時計の針がケチケチと鳴る内に、金の利息が、十円札で一枚づつ、輪転機で新聞を印刷する様に、ポイポイと生れて来たものだが、最早ここへ来ては無一物だ、之から一つ冥途を開拓して、娑婆に居つた時よりもモ一つ勉強家となり、大地主となつて、冥途の一生を送りたい。どうぞ邪魔をして下さるな』

と云ひながら、大股にふん張つて、関所を突破せむとする。

 此騒ぎに伊吹戸主の神は関所の窓をあけて、一寸(ちよつと)覗かせ給うた。慾野深蔵は判神(はんしん)の霊光に打たれて、アツと其場に悶絶し、蟹の様な泡を吹いて苦み出した。(たちま)ち館の一方より数人の番卒現はれ来り、慾野深蔵の体を荷車に乗せ、ガラガラガラガラと厭らしき音をさせながら、何処(どこ)ともなく運び去つた。之は地獄道の大門口内へ放り込みに行つたのである。深蔵は暗き門内へ放り込まれ、ハツと気がつき、ブツブツ小言を小声で(ささや)きながら、トボトボと慾界地獄を指して進み行くのであつた。

         (令3・3・3記)
〔『愛善世界』令和3年9月号掲載〕

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