昨年令和二年の振り込め詐欺など特殊詐欺の被害額が二七七億円で、依然深刻な状況にあると警察庁が発表している。
私にも詐欺の葉書が届いた。妻が三年前に他界した時である。「奥さんには借金があり、このままでは訴えられる。そうならないようにするので至急連絡を」とあった。ひとの妻の死を利用して金を儲けようという人間はまともではない。不快な葉書はすぐ破って捨てた。
ただ実は、和服のローンが残っていた。馴染みの呉服屋が妻の死を聞き、すぐに駆けつけてくれて、妻の新しい和服のことを知った。落ち着いた色の京手描友禅で、着るのを楽しみに妻がせっせと毎月のパート代を当てていたのであろう。一体誰が訴えるというのか。買ったままで着ることのなかった和服を写真に撮り、妻を詠んだ歌集の表紙にした。
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二月二十七日(土)午後、第五十一巻第一一章「乙女の遊」から第一三章「槍襖」までを勉強した。妖幻坊の妖術でできた浮木の森の曲輪城に、三五教に改心したランチ、片彦の元バラモン将軍がやって来る。次第に魔神に搦め捕られて行く様子は、まさに世間で横行する詐欺の手口を見るようである。
ここは魔神の館ではないか、とランチが少女に言うと
『繊弱き女の身をもって曲神の擒で居らうより、死んだ方が増』
と言うけなげさにまんまと欺されて、館の中に入ってしまう。オレオレ詐欺も親子の情を利用したものである。
ランチらは館の中で初稚姫に会う。加えて、
『救いの神と現れませる神素盞嗚の大御神』
という宣伝歌も聞き、すっかり正しい神の館だと信じてしまう。初稚姫のなりすましを信じるように、税務職員のなりすましを信じて還付金詐欺に遭うのである。そして
『酒と二人の美貌』に酔い『三五教の教理も、治国別の教訓も、残らず念頭より遺失』
してしまう。世間でよく聞く失敗談である。
霊界物語に示されたこの一連の巧妙な欺しのテクニックを知っておくべきだと思う。世間で詐欺に遭わないためにも。また、情に流され、なりすましにも気がつかず、本当のことがわからなくなるような誤った信仰に陥ることのないようにするためにも。ぜひ一読を。
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目が覚めるとランチらは石牢に閉じ込められていた。正体を現した悪神に脅され、三五教からの翻心を迫られる。必死に抵抗し、天津祝詞を奏上しようとするが声が出ない。魔神が「アイウエオ言霊」でひつように攻めて来た時、その言霊を途中から引き取る。自分の言霊を取り戻すことで、形勢を持ち直す。
『テヽヽテンゴを致すと…三五の大神現れたまひ、汝を罰したまふべし』
『ホヽヽ呆け野郎奴…大盤石心だ、勝手に致したがよかろう』
(令3・3・14)
〔『愛善世界』令和3年5月号掲載〕
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