⑫東日本大震災犠牲者慰霊五年祭レポート(1)

「愛善世界」誌掲載文等

ふくしま共同診療所を訪問して

 東日本大震災による福島第一原発事故放射能汚染の影響で、福島県内で小児甲状腺がんが多発しているという。その診療を目的に、平成二十四年十二月に開設された「ふくしま共同診療所」を訪問した。

小児甲状腺がんの多発

 福島県相馬市での震災犠牲者慰霊の五年祭を翌日にした平成二十八年三月十日、松浦武生島根人類愛善会会長をはじめ十名が診療所を訪問し、院長の布施幸彦さんにお会いした。

布施幸彦さん

                         

 布施院長は診療の傍ら、甲状腺がん多発の原因が放射能汚染によることを認めようとしない国や県に、早急な対策を求めるなど、全国で講演活動をされている。

 甲状腺がんはチェルノブイリ原発事故で多発しているが、福島第一原発事故の半年後、十八歳以下の子どもたちに甲状腺検査が始まっている。

 その第一回目では、百十四人にがんやその疑いとの認定があり、さらに三年半後、同じ子どもたちに第二回目の検査があった。新たに、三十九人にがん、またその疑いがあったが、そのほとんどが、第一回目ではまったく異常がなかったのである。

 こうした状況について、県検討委員会は「直接放射能の影響で発生したがんというふうには考えにくい」とし、「放射能の心配はいらない」と県医師会が学校を回っている。

     〔星雲社『序局』第十一号を参照〕

 

なぜ放射能の影響と認めないのか

 布施院長に質問した。

― 国や県は、なぜ、子どもの甲状腺がんが、放射能の影響だと認めないのか。
布施 がんが原発の影響だとした場合、チェルノブイリ法【註1】を適用すれば、年間放射線量が自然界の一ミリシーベルトを超えれば、その地域は移住の権利ゾーンに入ることとなる。そうすると、福島県そのものが移住する対象になり、全員退避とか国家賠償が問題になる。

 また、チェルノブイリの放射能被害でWHOが唯一認めているのは、子どもの甲状腺がんのみ。福島のがんを放射能被害だと認めれば、福島原発の事故がチェルノブイリ級の事故になってしまう。国はそこで「福島の被ばく量はチェルノブイリの六分の一なので、がんは放射能の影響ではない」と言っている。

― マスコミ、特に全国紙などは、この問題をどうして取り上げないのか。
布施 よくわからない。しかし、韓国、ブラジル、オーストラリア、ドイツ、スイス、シンガポールなどから取材に来た。その理由は、事故から五年目とか、事故があったのに、日本では早くも原発の再稼働をするからではないか。           (後日、記事あり。【註2】)

落合恵子さん寄贈の絵本

― 診療方針はどういうものか。
布施 「避難・保養・医療」の原則に沿ったアドバイスと診療をしている。

 つまり、まずは、放射線量の高い福島から、できることなら全員「避難」した方がよい。しかし、ここで生活せざるを得ない人は、放射能の影響のない地域に、せめて数日でも「保養」に行くのがよい。

 また、私たちは、放射能を心配しながら、この地域で暮らしていかなければならない人たちのための「医療」を守っていきたい。

 【註1】チェルノブイリ原発事故放射能汚染に対するウクライナ国家法 

 【註2】◇朝日新聞デジタル(28・3・13)

 小児甲状腺がん「家族の会」結成。医師は因果関係を否定。家族の孤立感。 

     ◇朝日新聞デジタル(28・3・13)

 原発事故で甲状腺がんに。6人が訴えた裁判始まる。東電は争う姿勢。(4・5・26)

○勉強会の講師へ

 最後に、松浦会長と江崎栄次大本山口本苑長からそれぞれ、布施院長に寄付金をお渡しした。院長は感謝をされ、「診療所建設基金」に入れるとのことであった。

 併せて、松浦会長が布施院長に、今年七月ごろ、島根で予定している原発放射能の怖さを知るための勉強会への講師をお願いしたところ、快く引き受けられた。 なお、布施院長には、浜田市生まれ、松江市育ちという御縁があった。

       (平28・3・21記)
       (令4・11・18追記)
〔『愛善世界』平成28年5月号掲載〕

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